大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
夕食は佐久間も同席して、四人での賑やかな食事になった。
子持ちの佐久間はともかく、幼い子を見慣れない瞬は翔琉のダイナミックな食事の仕方に驚いている。
「二歳児なら、こんなものですよ」
佐久間は余裕の表情だ。
「スポーンとフォークが上手に使えるようになってきたところなの」
「そ、そうか」
これから少しずつ慣れていくよと瞬は苦笑いしている。
詩織がダイニングやキッチンを片付けているうちに、遊び疲れたのか翔琉はソファーで眠り始めた。
用意してくれた部屋に翔琉を寝かせたら、佐久間も与えられている部屋に戻っていった。
急に別荘の中は静かになった。
瞬が詩織の手を取って促した。そのままふたりはリビングのソファーに腰掛ける。
「詩織、翔琉を産んでくれてありがとう」
しみじみとした口調で瞬が詩織に向かって話しかける。
「どうしたの、あらたまって……恥ずかしいわ」
なんだか照れくさいのだが、瞬は詩織の手を握って離さない。
「あの事故で、俺は子どもが持てないかもしれないって言われたんだ」
「ええっ?」
瞬の告白はあまりにも重い話だった。
「骨盤骨折して酷く痛めていたから、難しいらしい」
返す言葉が浮かばなくて、詩織はそっと瞬の手を握り返した。
「だから君が翔琉を産んでいてくれたことを知って、俺がどれくらい嬉しかったか」
「瞬さん」
「俺を父親にしてくれてありがとう」
瞬が詩織を抱きしめてきた。
なんだが彼が泣いているような気がして、詩織はそっと背を撫でる。