大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
詩織が病院の通用口を出ると、いきなり目の前にスポーツカーが停まっていた。
夜間照明にメタリックな赤は輝いていて、車に疎い詩織にもどこかの国の高級車らしいのはわかった。
「遅いな」
愚痴っぽく呟きながら、男性が車から降りてきた。詩織のそばに歩み寄ってきたのは、沖田瞬だ。
今日はオールバックの髪型ではなく、長めの前髪が額にかかっている。
服装はカジュアルで、身体にフィットしたこげ茶のレザージャケットがお洒落だ。
「あ、あれ? 沖田さんどうなさったんですか? 夜間受付はこちらではないのですが」
詩織は瞬が急病かと思い、受付に案内しようかと申し出た。
「迎えに来た」
瞬の言葉が理解できない。詩織の考えていることと、どうも噛み合わないのだ。
「急病ではないのですか? あ、彩絵でしたら家だと思いますが……」
「だから、迎えに来たんだ。食事まだだろ」
「は?」
瞬が助手席のドアを開ける。詩織に乗れというのだろうか。
「ですから、姉は家にいるのでそちらに行ってくださいませんか?」
瞬には詩織の話が伝わっていない気がして、つい大きな声を出してしまった。