大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
「なに盛り上がってんの?」
「瞬、いい子見つけたね」
沖田瞬は眉をひそめた。
「いい子?」
「あの車のこと、まったく知らないみたいだよ。どこの国の車とか値段とかわかってないと思う」
「ああ、そうだろうな」
瞬はなんの反応も示さないが、まだ拓斗はゲラゲラ笑っている。
「クククッ……瞬が車に興味のない子連れてるなんて」
笑われているのは自分だと思いながら、詩織はポカンとしたままだ。
「拓、笑いすぎだぞ」
「悪い悪い、車は見ておくから出かけておいでよ。親父さんの店で食事だろ?」
「ああ。すまない」
いってらっしゃいと言うように拓斗がヒラヒラと手を振るものだから、つられて詩織も手を振ってしまった。
「拓に愛想しなくてもいいぞ。悪友なんだ」
「悪友? 親友じゃなくて?」
「幼なじみで、ずいぶん悪さをしてきた仲間だ」
明け透けな物言いをする瞬は、クールな御曹司というより悪ガキのような表情だ。
「横浜のご出身なんですか?」
「母親を早く亡くして、小学校を卒業する頃までこの近くに住んでいた祖父母に育てられたんだ」
「そうでしたか……」
ずいぶんとプライベートな話を聞いてしまったと詩織は焦った。
姉の恋人の事情なら知っても大丈夫かなと思いながら、なんて言葉をかけていいのか迷ってしまう。
「中学高校時代は東京に住んでいたんだが、横浜まで来ては拓たちと遊びまわっていたよ」
懐かしそうに話す瞬は、やはりこの前のパーティーとは別人のようだ。
こっちが本当の彼の姿なんだろうと詩織は感じていた。