大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
色鮮やかな善隣門を、ふたり並んでくぐる。
夜の帳と共にネオンがきらめいて、人通りがとても多かった。
豪華な店構えの有名店から手頃な店まで数多くが軒を連ねているのだが、瞬はとある店の角を曲がるとずんずん奥に入っていった。
「親父さん、空いてる?」
濃いオレンジの暖簾には、白い文字で『海華楼』と書かれている。
中華料理店というよりラーメン店といった雰囲気の店だった。
ガラス戸を開けて瞬が声をかけるが、どうやら店内は込み合っているようだ。
白湯スープの匂いと、にんにくを炒めるいい香りがする。
「おや、久しぶりだね」
恰幅のいいエプロン姿の老人が奥の厨房から顔をのぞかせた。
「こっちおいで、座敷なら座れるよ」
「ありがたい。ふたりだ」
瞬のあとから詩織が顔を見せると、老主人は驚いた顔をする。
「え? 女の子? デートかい、瞬?」
「ああ」
瞬の返事で、店内にいた客たちからものすごく注目を集めてしまった。
(冗談でしょ⁉)
いたたまれなくて、詩織は俯きながら店の奥へ進む。
「こっちだよ」
老主人が手招きしてくれている。
カウンターの奥にこじんまりした座敷があって、ふたりはそこに通された。