大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
小さな座卓に、何枚も皿が並べられた。少しずつ色々な種類があるのが店主の配慮だろう。
正式な名前は知らないがどれも家庭的で、食べやすそうななものばかりだ。
にんにくの茎の炒めもの。エビチリ。ナッツを使った白身魚のサラダ。一見フカヒレにも見える春雨のスープ……。
「美味しい!」
「だろ? 親父さんの料理はあっさりした広東風でいくらでも食べられるんだ」
仕事終わりで空腹だった詩織は遠慮なくパクパクと食べる。
瞬も豪快に食べているが、御曹司らしく箸の使い方は綺麗だった。
「ハイ、小籠包だよ。熱いから気をつけてねお嬢さん」
老主人が大皿に乗せた湯気の立つ蒸し器を詩織の目の前に置いてくれた。
大好きだといった言葉を聞いていたのかもしれない。
「わあ、ツヤツヤですね」
老主人が蒸し器のふたを開けると、小籠包が顔を出す。詩織は思いっきり笑顔になった。
「君はよく食べるな」
「そうですか? 普通だと思いますが」
レンゲに乗せた小籠包をふうふうしながら詩織が答えると、瞬はクスクスと笑い出した。
「その顔、面白い」
「だって、熱いじゃないですか」
そろそろいいかと口の中に入れたが、やはり中から染み出す肉汁は熱々だ。
「熱い! でも、最高!」
「ほら、ウーロン茶飲めよ」
氷の入ったグラスを詩織に差し出しながら、瞬はまだ笑っていた。