大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
(ま、仲はよさそうだな)
彩絵に聞いていたから近藤病院へ行ってみたのだが、午後六時を過ぎても詩織は出てこない。
(勤務時間は六時までだって彩絵は言ってたはずだが)
二十分ほど過ぎたら、ようやく顔を見せた。辺りはもう暗いが、病院の周囲は街灯が多くて明るい。
詩織の白い顔が見えた時はホッとしたが、つい『遅いな』と言ってしまった。
これまで女性を迎えに行って不審な顔をされたことはなかったが、どうやら詩織の受け取り方は違っている。
誘っているのに会話がかみ合わないし、救急を受診したい病人と間違われてしまった。
(こんなことは初めてだ)
自分で言うのはおかしいが『沖田瞬』が食事に行こうと言っているのに、怪訝な顔をしている。
「面白いな、君は」
思わず口から出た言葉に、また詩織はキョトンとしている。
このちぐはぐな会話からふたりの関係が始まったとは、誰も信じてくれないだろう。