大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
パーティーで見かけた時は大人しいタイプかと思っていたら、詩織はよく喋ってよく食べる。
話を聞いてくれるときは真剣な表情だし、拓斗や海華楼の親父さんとも自然体で話している。
(こんなに明るい性格だったのか……)
瞬はストレスがたまるとスポーツカーに乗りたくなるのだが、これまで女性を乗せたことはなかった。
つい詩織を誘ったのだが、高級車には関心がないのかまったく興味を示さない。
この車を見てどんな反応をするのか気なっていたのだが、肩すかしをくらった気分だ。
病院から出てきた詩織は、仕事帰りとはいえほとんど化粧はしていないし髪はストレートで肩に流したまま。
ラフなパンツと薄手のセーターに軽いコートを羽織った姿で、清潔感はあるが若い女性らしい華やかさはまったくない。
(内面も外見もシンプルといえばいいのか?)
いい意味で、無駄がなくて飾り気がない。何時間も一緒にいたが、楽で心地よい相手だった。
普通にしゃべって、食事を味わって、笑ったり驚いたりしただけなのにすっかり肩の力が抜けていた。
毎日感じていた背中がピリピリするようなストレスはすっかり洗い流されていたのだ。