大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
瞬が母親を亡くしたのはまだ幼い頃で、手がかかるからと横浜にある母方の祖父母の家で育てられた。
小学生だった姉はそのまま父親のもとに残ったので、離れた時間が長かったせいか姉弟としてはあまり打ち解けた関係とはいえない。
中学生になってから父のもとに帰ったのだが、父の隣には新しい母がいた。
いきなり家族四人になっても、どこかちぐはぐで落ち着かない。
食事の時も会話が弾むことはないし、いつも父と義母の顔色を見ていた気がする。
つい面白くなくて反抗的になってしまい、家族から離れたくて横浜の幼なじみたちとつるむようになった。
父の反対を押し切ってレーサーという仕事にもついた。
レース中にクラッシュした車の巻き添えて大ケガをするまでは、刺激だけを求める毎日だった。
今となっては懐かしくもあり、もどかしくもある思い出だ。
***
食事が終わって店を出ると、「ごちそうさまでした。とっても美味しかったです」という詩織は満足そうな笑顔だ。
「今度は友達と海華楼に来てみますね!」
その言葉に、また瞬は驚いた。
「また連れてきて欲しい」とねだるどころか、詩織は別の友人と食事にくる気でいるらしい。
自分の存在を無視されたようで、少しばかりムカついた。
「じゃあ、また誘うから連絡先教えて?」
「え?」
詩織の表情は固まったように見えたが、上手に話を切りかえた。
「それよりも……」