大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
ガソリンスタンドへ向かって歩く途中、詩織が瞬の背中に回った。
ちょうどジャケットを脱いで身体にフィットしたカットソーになっているから動きがよく見えたのだろう。
右の肩甲骨の辺りが気になるらしく、じっと見ている。
「もしかして、事故で右大腿骨を骨折して、頚椎を痛めましたか?」
「わかるのか?」
「私は医者ではありませんが、歩く姿を見たらだいたい見当はつきます」
真面目な顔で詩織が話し出した。
「この辺り、いつも凝っているでしょ」
ふいに詩織が肩甲骨の下くらいに触れてきた。軽く押さえた感じがしたと思ったらキュッと姿勢が伸びて気持ちよくなる。
今度は瞬の下半身の動きに目を向けているのがわかり、妙に照れくさい。
「座敷に座っていたから、太腿のあたりが痛くなっていませんか?」
「あ、ああ」
つい言葉がうわずってしまったが、詩織は気にならないのか瞬の身体全体をじっくりと見ている。
「それに、首が痛むのを我慢して庇っているから身体の中心がずれてる」
「そうなのか?」
初めて自分の肉体の弱点を突かれた瞬は、思わず問い返してしまった。
自分でも、いつも首から背中にかけて筋肉が張って疲れがたまっている気がしていたのだ。
キョトンとした顔の詩織が首を傾げる。
「え? 今日は沖田さんのリハビリの相談だったんじゃないんですか?」
だから身体のことを説明しているのにと、詩織は真面目な表情だ。
「ああ、それは大丈夫だ。あえて言えば……今日は心のリハビリだったかな」
「心? リハビリ?」
ますます、詩織は不思議そうな顔をする。
「笑ったらスッキリしたよ」