大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
決められた道
数日後の夕方、病院のリハビリルームにいた詩織に連絡が入った。
「詩織先生、お電話です」
「ありがとう」
内線電話に出ると、父だった。手が空いていたら、すぐ来るようにとの指示だ。
たまたまスタッフの話し合いが終わっていたので、詩織は五階の院長室まで急いだ。
担当している患者になにかあったのかと気になりながら、無機質なグレーのドアをノックする。
「どうぞ」
父の声が聞こえたので、そっとドアを開けて入った。
「お疲れさまです、院長」
「ああ、お疲れ。そこに座って」
自分は院長デスクに座ったままだが、目の前にあるソファーを指差す。
詩織が腰掛けてから父を見ると、なんだがイライラとしているようにも見える。
「彩絵のスポンサーになってくれている沖田自工の御曹司とは面識があるのか?」
「はい。先日パーティーでお会いしました」
ふたりで食事に行ったことは家族には話していなかったので、詩織は冷や汗をかいた。
なぜか、両親にも彩絵にも言えなかったのだ。
「お前を沖田自工の陸上チームにスカウトしたいと言われたよ」
「は?」
沖田自工は大きな会社だから、昔から従業員たちがプレーするスポーツチームをいくつか持っている。
バレーボールや野球が有名だが、最近では陸上部にも力を入れているらしい。
「サブの立場だそうだが、沖田自工のスポーツトレーナーとして働いてほしいという依頼があった」
「実業団チームのスポーツトレーナーですか?」