大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした


「お前に話していなかったが、丁寧にお断りしておいたよ」
「え?」
「沖田さんは彩絵と付き合っているらしいから、その縁で妹のお前に話を持ってきただけだろう」

父が彩絵と瞬が交際していると認めたということは、きっと正式なお付き合いなのだろう。
詩織にスポーツトレーナーの依頼があったのは、姉のためだと言わんばかりだ。

「ふたりは婚約しているんですか?」
「私はよく知らないんだが、母さんと彩絵はその話で盛り上がっていたよ」

実家を出ている詩織には、家族の細かな情報は入ってこない。
まだ姉からは婚約したと聞いていないが、父が認めているなら瞬との結婚は本決まりなのだろう。

「詩織には、病院を継いでもらわないといけないからね」

父はなんでもないように話しているが、『病院を継ぐ』という話は詩織にとって重大な意味を持つ。

「それは……」
「わかっているだろう? 詩織にはこの病院の後継者になってもらうから、よそで働く時間はないんだよ」


< 36 / 118 >

この作品をシェア

pagetop