大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
瞬が指定した場所は、中野駅からも近いというのに想像以上に立派な建物だった。
セキュリティーチェックが厳しいので、彼からの申し出でなければ中に入れなかっただろう。
体育館と呼べる程の広さに、様々なトレーニング用に器具が置かれているしマットレスを敷き詰めたスペースも見える。
沖田自工が所有する施設のようだ。
「すごい……」
試合前のトレーニングをしている人、ケガのあとのケアのためにリハビりをしている人。
実業団のプレーヤーとはいえ、みな一流の選手ばかりだ。
みんな集中してメニューに取り組んでいるのがよくわかる。
「こっちだ」
瞬が廊下側の階段を上がって行く。二階からは、全体がよく見渡せた。
それこそ体操の競技会が開けそうな広さで、沖田自工の本気度がよくわかる施設だった。
「ここで、鍛えすぎちゃったんですね」
「は?」
ポロリと漏れた詩織の言葉に、瞬が怪訝な顔をした。
「沖田さんもここでトレーニングしたんじゃないんですか? 痛くても無理して筋トレしたり……」
選手に混ざって鍛えていたら、必要以上に頑張りすぎたのだろう。
詩織は瞬の顔を見て、ついアドバイスのようなことを言ってしまった。
「背中の痛みは早く直した方がいいかもしれませんね」
うっかり言い過ぎてしまったと思い、慌てて一階に目を向けた。
それからはトレーニング風景ばかり見ていたので、瞬がニンマリと笑ったのには気がつかなかった。
「なら、君が担当してくれるか?」
「え?」
「君が俺のトレーニングを見てくれたらいいんだが」
「それは……」
即答はできない。詩織は口ごもってしまった。