大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
ロールキャベツ、サラダといったメニューだが、和風の煮物もある。
どれも美味しそうな家庭料理ばかりだ。
「親父のところにいる家政婦が料理上手なんだ」
ふたりでキッチンからリビングのテーブルに温めた料理を運んだ。
小皿やフォークを瞬が並べると、遅い夕食にしてはちょっとした豪華さだ。
「ほんと、どれも美味しそうですね」
「なにか飲むか?」
「いえいえ、これで十分です」
熱々のロールキャベツは、あっさりとしたコンソメ味で食べやすかった。
「離れには年寄りもいるから、我が家の料理は薄味なんだ。口に合うといいんだが」
「この味付けで十分です。素材の味がよくわかるし、まろやかなお味ですね」
瞬はパクパクと煮物を食べている。
祖父母に育てられたと言っていたから、案外フランス料理よりも家庭の味が好みなのかもしれない。
(彩絵は知っているのかな? 沖田さんの好む味)
瞬と過ごしていると楽しくて、時間を忘れそうになる。
いつまでも一緒にいたいと思うのだが、どうしても姉の顔が浮かんでくるのだ。
今ごろは、カナダで開かれる大会に備えてカルガリーで練習しているはずだ。
詩織は姉の留守に瞬とふたりで会っていることに、罪悪感という仄暗い気持ちを感じていた。
「それで、さっきの話なんだが」
ハッと顔を上げたら、瞬と目が合った。彼はじっと詩織を見つめていたようだ。