大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
詩織は瞬の背に、そっと手のひらをあてた。
「このあたりですか?」
「ああ……」
瞬は気持ちがいいのか無言だ。じっと詩織のマッサージを受けている。
詩織は黙々と手を動かしていく。
けっして強くなく、それでいて血流をよくする程度に撫でるのだ。
傷んで硬くなった筋肉をゆっくり時間をかけてほぐしていく。
それも、長時間触るのはよくないだろう。
十分過ぎる頃だろうか、いきなり瞬が仰向けになった。
「あ! 動かないでください」
「無理だ」
そういうと、瞬が詩織の腕を掴んだ。
「君が悪い」
そう言い終わる前に、詩織の身体は引き寄せられていた。
あっという間に瞬の胸に頬があたる。
「じっとしてくれ」
逆の立場になったようだ。詩織の背に瞬の手が伸びてゆっくりと背骨の辺りを上下する。
「やめてください」
瞬から離れるために起き上がろうとするのだが、力強い腕が身体に回されているのか身動きが取れない。
身を捩ってもどうやっても、かえって瞬に密着してしまう。
詩織の耳に、瞬の心臓の鼓動までが聞こえてくる。
ドクドクと正確なリズムだが、少し早く脈打っているようだ。
「詩織……」