大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
汗とかすかなコロンの匂いが詩織の鼻腔をくすぐる。
学生時代の恋人と別れてから、男性と抱擁することなんてなかった。
詩織は瞬の腕の中にいると、仕事だということを忘れそうになる自分が恐ろしくなった。
(ダメ! 沖田さんには彩絵がいるのに)
詩織の心の叫びは瞬には届かない。
キュッと腕に力が入ったと思うと、詩織の身体は反転した。
「やめて、おねが……」
すべての言葉を言いきる前に、詩織の唇は塞がれてしまった。
熱い唇を押しあてられて、そのまま有無を言わさない勢いで口づけされる。
「ああ、君と初めて会った日の痛みがわかったよ」
唇を離しながら、瞬が囁いた。
「こうしたかったんだ、君と」
「え?」
また詩織の唇に熱い吐息がかかる。
「ようやくわかった。あの時から、君に触れたいと思っていたんだ」
瞬のあの時という言葉が詩織の心に刺さった。
彼も初めて会った日に、ふたりの間に弾けた火花を感じていたのだろう。
瞬の情熱に押し切られたように、詩織も彼のキスに応え、受け入れていた。