大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
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「詩織、お見合いするんだって?」
詩織が久しぶりに近藤家に帰ってみると、姉が帰国していた。
十二月に入ってしばらくはオフらしい。
年明けからまた練習を開始して、春からの試合に備えるのだろう。
「どんな人?」
「お母さんのお友達の息子さんで、整形外科のドクターなんだって」
明るいリビングルームでティータイムを楽しんでいた彩絵が興味津々といった顔で聞いてくる。
「肩書きじゃなくて、顔とかスタイルとかよ」
「さあ?」
彩絵は詩織の分も紅茶を準備しようとキッチンへ立つ。
お茶を飲みながら、根掘り葉掘り相手のことを聞き出そうとしているようだ。
「彩絵、お茶はいいよ。すぐ帰るから」
「え~、ゆっくりしていきなよ」
「今夜はお母さんは?」
「どこかのパーティーらしいよ」
お見合いになにを着ていくか相談しようと思っていたのに、あてが外れてしまった。
母の友人の息子さんと会うのだから、母の好みに合わせた方が無難だろう。
なんとなく投げやりな気分のまま、詩織はソファーに座った。