大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
十二月という慌しい時期だが、相手の都合で詩織の見合いの日時は決められていた。
年明けからはしばらく海外研修で忙しいらしく、早めに会いたいとの希望だったようだ。
銀座の老舗ホテルにあるラウンジでの待ち合わせだ。
木目の家具や室内は落ち着いて上品だがモダンな雰囲気もある。
都心を見下ろす場所はゆったりとしていて、見合いというよりさりげなく会うというスタイルだ。
詩織は母の友人の戸田佳奈子とは幼い頃から面識があったが、その次男の悠斗とは初対面だ。
「久しぶりね、詩織さん。また綺麗になって」
「ご無沙汰しております。おばさま」
詩織の母も社交的だが、佳奈子はそれ以上に顔も広く会話がうまい。
ニコニコと笑っている母よりも佳奈子は気合が入っているのか饒舌だ。
ワインレッドのワンピースを着た詩織は、いつもより少し濃くメイクだし髪もブローして艶があるが『綺麗』と言われるほどではないと自覚している。
「息子の悠斗とは初めてよね」
「はじめまして、戸田悠斗です」
「はじめまして、近藤詩織です」
挨拶を交わして、さり気ない話題を選んで話し始める。