大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
二時間ほどおしゃべりをして、その日はお開きになった。
「ゆっくりできなくてすみません。よかったら、こんどはお食事でも」
「はい。ありがとうございます」
悠斗は夜勤があるらしく、車で出勤する途中だから詩織をマンションまで送ってくれるという。
母たちはしゃべり足りないのか、どこかへ出かけるつもりのようだ。
「すみません、助かります」
悠斗とエレベーターに乗って、一階に下りた。
ロビーから玄関へ向かって歩いている途中で、いきなり詩織は腕を掴まれる。
「きゃっ」
小さな悲鳴が出てしまい、悠斗が身構えるのがわかった。
うしろを振り向いたら、瞬が立っている。
「沖田さん……」
「詩織さん、お知合いですか?」
悠斗は硬い表情だ。
「は、はい。仕事の関係で」
瞬の表情は読み取れないが、悠斗をじっと見ている。
「どうも。お話し中に失礼しました」
「いえ……」