大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
それから……
***
まさか、自分がこんな礼儀知らずな人間だとは思わなかった。
詩織がホテルのエレベーターから男性と下りてきたのを見た瞬間に、全身の血が沸騰したような気分になったのだ。
小春日和の土曜日の午後、瞬は昔のレーサー仲間の結婚式に顔を出した帰りだった。
幸せそうなカップルを見せつけられた後だけに、我慢できなかったのかもしれない。
あの男は誰だ、あの男は詩織のなんなんだ。ホテルの部屋にふたりでいたのか!
見過ごせなくて、つい彼女の腕を掴んでしまった。
振り向いた彼女の戸惑う瞳を見て、やっと我に帰ることができた。
この前の気まずい別れを気にしているからか、詩織は口数が少ない。
「どうも。お話し中に失礼しました」
「いえ……」
なんとか穏やかな声に切り替えて、その場を取り繕う。
「パーソナルトレーニングを詩織さんにお願いしているものですから、お見掛けしたので声をかけてしまいました」
「そうでしたか」
詩織との関係を話すと、相手の男も少しホッとした顔を見せた。
「おふたりはこれからお出かけですか?」
「いえ、詩織さんをお送りするところです」