大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
送るところなら好都合だと、言葉がスラスラと出てきた。
「それなら、私がお送りしますよ。丁度トレーニングの日程のことで連絡をしようと思っていたところなので」
これ以上、詩織が他の男といるのを見たくなくて強引に割り込んでしまう。
「そうですか? 詩織さん、それでよろしいですか」
「あ、あの」
「では、ここで失礼します」
詩織の返事を待たずに詩織を連れていこうとしたら、その男性は親し気に声をかけてくる。
「じゃあ、詩織さん。またご連絡しますね」
「はい。お待ちしています」
『待つ』という言葉にイラっとしたが、男性が去るのを見送ってから詩織に向き直った。
「彼と約束したから、送っていくよ」
「沖田さん……」
詩織が逃げるかもしれないと思い、つい腕を取った。
その手を離さないまま駐車場に停めていた車まで行く間、ふたりとも無言だった。
詩織もなにも言わず、俺のそばを歩く。きっと呆れているのだろう。
彼女に対してだけ自分でも感情のコントロールが効かなくて、わがままになるのだから。