大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
「わかりました」
詩織はこくりと頷いた。
初めて瞬に触れて『ああ、この人を好きになるんだ』と、あの日ふたりの間に火花が散った理由がわかった。
今は、正式にしたいと言ってくれた彼の言葉を信じることしかできない。
「落ち着いたら、きっと恋人としてオープンにするから」
「恋人ですか?」
「そうだろう? 違うのか?」
詩織の反応に、瞬は眉を少し寄せた。
素直に『恋人』だと信じなかった詩織の反応が気に入らなかったようだ。
「お待ちしています」
その言葉を聞いた瞬が、また少し眉を寄せた。昨日の見合い相手を思い出したようだ。
「それまでに、見合いの話は断っておいてくれ」
嬉しいのか可笑しいのかわからないが、詩織はクスッと笑ってしまう。
「なんだ?」
「だって、時々だけど沖田さんたら駄々っ子みたいな顔をするから」
前から思っていたが、とてもしっかりした大人のようで時おり拗ねた顔を見せるのだ。
「沖田さん?」
「え?」
「いつまでその呼び方なんだ?」
この問いも、少しむくれた表情を詩織に向けながらだ。
「えっと、瞬、さん? 瞬さん」
「そうだ」
ニンマリと笑う瞬の顔は、普段よりもずっとやんちゃに見えた。