大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
瞬が仕事を理由に詩織の存在を隠していたのも、彩絵が本命だったからではないだろうか。
(いいえ、瞬さんはそんな人じゃない。別れるならキチンと話してくれるはず)
瞬を信じたいのだが、昨夜の約束は別れ話をするためだったようにも思えてくる。
瞬が事故に遭った衝撃もあって、詩織の気持ちは乱れきっていた。
一晩寝ていない頭ではまともに考えられないし、悪い方へばかり気持ちが向いていく。
(彩絵が瞬さんのそばにいるんだ。なら、私は……)
病院から外に出ると、朝の光が眩しかった。
雪は結局積もらなかったのだろう。道は凍っているようだが空気は乾いている。
吸い込む空気は冷たくて、肺の中まで凍りそうだ。
どこへ行くのか自分でも決められないまま、最寄の駅へ向かって凍える早朝の歩道を歩く。
(どうしよう……)
姉の好きな人だと知っていながら、瞬に恋した自分への罰なんだろうか。
思い描いていた彼との幸せな未来は、消え去ってしまった。
あてもなく駅までの歩道を歩きながら、詩織はほろほろと涙を流していた。