大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
「瞬さん……」
立ち止まった詩織の横に停まった車の後部座席から、ゆっくりと瞬が降りてきた。
よく見れば、その男性はかつての瞬と同じではなかった。
髪は少し長くなって、全体に痩せた感じがする。
右頬にはひと筋はっきりと見える傷あとがあり、整った顔立ちに凄みを与えていた。
ゆらりと瞬が詩織の方へ数歩だけ歩いた。少し右足を引きずっているようにも感じる。
面変わりして、未だに歩行にも差し障るほどの大ケガだったのだろうか。
詩織は受け取ったばかりのリンゴの入った袋をギュッときつく握りしめた。
そうしないと身体に力が入らないのだ。
この二年、瞬の情報にいっさい触れてこなかった詩織には衝撃的な姿だった。
「探したよ」
「どうしてここが?」
誰にも知られていないと思っていたし、知らせてもいない。
どうしてこんなにも東京から離れた場所がわかったのか、どう考えても不思議だった。
「高木麻耶を覚えているか?」
「え、ええ……」