大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
あの夜が明けてから
***
瞬が交通事故の後はっきりと覚醒したのは、もう桜が咲き始める頃だった。
痛みが酷かったから強い薬を飲んでいたせいもあって、麻酔から覚めてからも一カ月以上は意識が混とんとしていたのだ。
(ここはどこだ……)
薬で深く眠っていたり、不意に意識が戻ったりしたり状態が長かったので始めは戸惑った。
詩織に会いたいと思ったが、声が出せない。
なんとなく病院にいるのはわかった。
時おり女性の話し声が聞こえてくるが、看護師だろうか。
(詩織……)
腕や脚や身体のあちこちに包帯が巻かれ、骨折した場所はギプスで固定されいるから身動きがとれない。
身体全体が重いし、ペンも持てなくて筆談すら難しい。
周りには交際を秘密にしていたから、詩織に連絡をとる手段がない。
拓斗にだけでも何とかと思ったが、看護師とも意思の疎通が難しいのだ。
(こんなことになるなら、早くオープンにしておけばよかった)
後悔したが、寝たきりの瞬には打つ手がなかった。
あの夜の記憶が少しずつ蘇ってくると、最後に見たのは眩しいヘッドライトだったと思い出した。
咄嗟にハンドルを切って避けたが、それからどうなったかはわからない。
身体の状態を考えればかなりの事故だったのだろう。
少しずつベッドから移動出来るようになったし、声もだせるようになった。
鏡で顔を見ると、頬には傷があった。
(酷い顔だ……詩織が見たら心配するかな)
意識がはっきりしてきたら、今度は違和感を感じた。
なぜか瞬のいる特別室には彩絵が出入りしているし、義母と仲よさそうにしている。
(どういうことだ? いつのまに?)