大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
顔に残った酷い傷と車イスに座っている瞬を見たときの、彩絵の引きつった顔は忘れられない。
「どうして君がここにいるんだ?」
我ながら擦れて力のない声だと思ったが、恐ろしく感じたのかピクッと彩絵の肩が震えた。
「なに言っているの、瞬さん。彩絵さんはあなたの恋人でしょ? ずっと心配してくれていたのよ」
「は?」
義母の言っている意味がわからない。
「誰が誰の恋人なんですか?」
「いやだ、まだ意識が混乱しているのかしら」
困ったような顔をする義母のそばで、彩絵が青い顔をしている。
「お義母さん、どういうことですか?」
「事故に遭った時、あなたは指輪を持っていて車には花束があったのよ」
「ええ、それは覚えています」
事故は、詩織と待ち合わせをしていた金曜日の夜だった。
彼女にプロポーズする予定で、指輪と花束を準備していたのは間違いない。
「だから指輪にあったイニシアルS・K、この近藤彩絵さんがあなたの恋人でしょ?」
義母は笑顔で話しているが、瞬はもう我慢できなかった。
彩絵の方に顔を向けると、バッグを胸に抱えて部屋を出ていこうとしている。
「彩絵! どういうことだ!」
大きな声を出そうとしたら身体が大きく揺らいで、しわがれた声になってしまった。
「瞬さん、どうしたの? 興奮しないで」
瞬が急に怒りだしたので、義母はなだめようと必死になっている。
車イスから落ちそうになった瞬を支えようとしてくれたが、義母の手を思わず払いのけてしまった。
「彩絵!」
瞬は彩絵にもう一度怒鳴ってから睨みつけた。
ブルブル震えながら、彩絵は瞬を振り向くと信じられない言葉を口にする。
「詩織は……大ケガをして傷だらけのあなたはイヤだって、家から出ていったわ」