大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
病室に入ってくるなり、拓斗は涙ぐんでいた。
いつもすっと背を伸ばしていた瞬が、ベッドに背をもたれかけ包帯だらけになっていのだ。
あらわになった右頬の傷は、整った顔に凄みを感じさせている。
「瞬、よかった~、生きてた!」
拓斗が無理やり明るい声を張り上げているのがわかった。
「勝手に殺すなよ」
悪友らしいやりとりが、瞬に生きている実感を抱かせる。
「会いたかったんだ、ずっと」
「すまない。意識がやっとハッキリしてきたんだ」
キョロキョロと特別室の中を見渡しながら、拓斗は落ち着かない様子だ。
「今日はおばさんや秘書や、彩絵さんはいないのか?」
「ああ。用事があるらしい」
まさか追い出したとも言えず、瞬は誤魔化した。
「瞬に会いたくて何度かここに来たんだけど、面会謝絶だって言われて」
「そうだったのか」
やっと拓斗も瞬が目の前にいる実感が湧いてきたのか、ベッドのそばまで近付くと体調を気遣う。
「起きててもいいのか? まだ痛むんだろう?」
「どうしても、拓斗に会いたかったんだ」
「照れるな。そんなセリフをお前に言われるとは思わなかったよ」