GIFT
「それより、さっきから気になってたんだけど、葵が手に持ってるものって何?」

「えっ…これ?釣りするのに必要みたいなの。私、魚は触れないんだけど…」

「エサ?」

「まっ‥まぁ…。それより、この川って魚釣れるの?」

「今はどうかわからないけど、僕が小学生の時なんか、コイとかフナとかボラがすっごい釣れたんだ。葵は釣りした事ある?」

「う〜ん、小学生の時に1度だけ。今度釣りのやり方教えてよ」

「いいよ、もちろんだよ」

「ねぇ、瑛太…。お願いがあるんだけどいい?」

「何?」

「数分間だけ、ここで私を1人にしてもらってもいいかな?」

「いいけど何で?」

「ちょっと…。私なりの思い出作りと記録のため…見ないでね。約束だからね」

葵はそう言うと小指と小指を重ね合わせて指きりげんまんをしてきた。

「わっ‥わかった」

「ありがとう」

そして僕は、葵から数メートル離れた場所まで移動した。

何をしているのか気になったけど、約束だから見なかった。

それから数分後、葵は僕の所までやって来た。

「お待たせ」

「もういいの?」

「うん」

「あれ?さっき手に持ってた物は?」

戻って来た葵の手には何もなかった。

「釣りをする子にあげちゃった」

「そうなんだ?」

釣りをする子?

そんな子供どこにいるっていうんだ?

「いいのっ」

葵がいいって言うなら別にいいけど…。



今日は日曜日で葵とデートをする為、僕の地元の駅で待ち合わせをしていた。

「瑛太っ。こっち、こっち…」

「葵、待った?」

「すっごい待ったよ。女性を待たせるなんて、いけないんだから」

「ゴメン、気を付けるよ」

とは言ったものの、待ち合わせの時刻までは、まだ10分以上はあった。

「何?」

「何でもないよ」

「私が嘘ついてると思ってる?」

「そんな事言ってないよ」

「お互い信じられなくなったらおしまいだよね。私たちもう…」

葵は、うつむき目頭を押さえていた。

「でもホントは?」

「全然待ってない。あっ…言っちゃった。テヘッ」

やっぱり…。

「それで今日はどこに行くの?」

「瑛太の小学校…」
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