GIFT
葵はそう言うと、何かの絵が描かれたシールらしき物をポケットから取り出した石に貼っていた。

「それどうするの?」

「こうするの…えいっ」

葵は、それを川に向かって全力で投げた。

最初は石の行方を目で追っていたけど途中で見失ってしまった。

見失ったと言うよりは、途中で消えたように見えた。

それにしても、せっかく石にシールらしき物を貼ったのに、何で川に投げ捨てちゃうんだ?

葵の事だから何かしらの意味があるんだろうけど、僕には到底わからなかった。

すると葵は何事もなかっかのように、僕の腕にしがみついてきた。

それから5分くらい歩くと小学校に到着した。

日曜日だったけど、少年野球の練習があるようで、正門は空いたままになっていた。

「どこか見たい所あるの?校内は閉まってるから、それ以外の所だったら案内するよ」

「瑛太が勉強していた教室がいいな」

「だから閉まってるから無理だって」

「大丈夫だよ。島崎先生が開けてくれるよ」

「島崎先生?今日は日曜日だから先生は来てなっ…」

「紺野じゃないか?」

「えっ!?」

声のする方に振り向くと、島崎先生が立っていた。

「久しぶりだなぁ。元気だったか?」

「はい…。先生もお元気そうで良かったです」

「相変わらず友達も少ないのか?」

「そんなわっ‥」

「はい、相変わらずです」

僕が答えようとすると、葵が横から割って入ってきた。

「やっぱり変わってないかぁ。それより君は?」

「私は、紺野くんに駅でナンパされて無理矢理彼女にさせられた佐藤葵と言います」

「そっ‥そうか…。紺野、お前の彼女面白いな?」

「はい。面白くて超かわいい彼女です」

葵は、また勝手に返事をしていた。

どういうつもりだよ…。

「葵、少し黙っててくれないか」

「どっ‥どうして…そういう言い方しか出来ないの?」

葵は島崎先生の後ろに隠れて泣いたフリをしていた。

「紺野、女性にはもっと優しくしなきゃいかんぞ」

「ちっ‥違うんですよ先生…」

「何を言い訳してるんだ。昔のお前はイジメっ子からイジメられている子を助けるような、正義感に満ち溢れた男だったぞ。どうしたんだ?」

「先生…たぶんそれ僕じゃないです。そんな事した覚えないです」

「そっ‥そうだったか?紺野じゃなかったか?」

「えぇ…」

「おかしいな…色んな生徒を見てると記憶が曖昧になってしまうもんだな。すまんなぁ」

島崎先生はバツの悪そうな顔をしていた。

でも本当のところ、島崎先生の言ってる事は正しかった。

ただ、葵の前で正義のヒーロー面をするのは嫌だった。

「ウソつき。でもカッコイイじゃん」

「えっ…何が?」

「うぅん、何でもない」

葵はニヤニヤと不敵な笑みを浮かべてそう言った。

「先生、学校の中を見たいんですけどダメですか?」

「構わんぞ。但し、夕方の4時には鍵を閉めるからな」
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