GIFT
「わかりました。ありがとうございます」

「先生ちょっと…」

葵は、そう言うと島崎先生に近づき何かを耳打ちしていた。

「先生、よろしくお願いします」

すると今度は、頭を下げて何かを頼んでいた。

それから僕らは来賓用のスリッパを履いて、校内のあちこちを見て回った。

あの頃とさほど変わった所はなく、小学生に戻ってしまったような錯覚に陥った。

「瑛太、好きな女の子とは何年生の時に一緒になったの?」

「確か…小5の時だったと思う」

「その時の教室に行こうよ」

「マッ‥マジで?」

「マジでっ」

「あんまり気が進まないけど…」

教室に行くのは構わないけど、そこへ行く動機が何か嫌だった。

「いいから、行こうよっ」

葵は僕の手を握りしめると、突然走り出した。

そして、校舎の2階にある5年3組の教室の前に着いた。

葵は何も言わなくても、ここだとわかっていた。

教室の中に入ると、葵は何かを探すようにキョロキョロとし始めた。

「瑛太、これこれっ」

葵は廊下側から2列目の後ろから3番目の席を指差していた。

「葵…そこ僕の席じゃないよ」

「知ってるよ。瑛太の席はあそこでしょ?」

葵は、あの頃僕が座っていた窓際から3列目の後ろから2番目の席を指差した。

「そうだけど…なら何でこの席を?」

「瑛太が座ってたのはあの場所だけど、実際使ってたのはこの机でしょ?」

「どうしてわかったの?まさかっ」

僕は机の下に潜り込み、机を見上げた。

間違いない、これは僕の机だ。

「何て書いてあるの?教えてっ」

「ヤダよっ」

何故ならそこには、相合い傘の中に僕の名前と大好きだった女子の名前が書いてあったからだ…。

「小川里香…どんな子だったの?」

「・・・・・」

「ねぇ、どんな子だった?」

言わなくても、きっと全て見えてるはずだ。

どうしても僕の口から言わせたいようだ。

「可愛かった。髪が肩より長くて、身長も僕と変わらなかった。声も可愛らしかったし、性格も優しかった」

「ふ~ん、そうなんだ」

妬いてるのか?

「葵、もしかして気になるの?」

「全然っ。でも2人には何もなかった」

「小学生だったしね。それに彼女は僕の事なんてなんっ‥」

「好きだったみたいよ。あの席…」

葵は、また違う席を指差した。

まさか…

僕は、慌ててその席の下に潜り込み席を見上げた…

するとそこには相合い傘が書かれていた。

相合傘の下には“小川里香”と“紺野瑛太”2人の名前が書かれていた。

「そんなぁ…」
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