GIFT
「好きでサッカー部に入った訳じゃなかったし、あの頃から団体行動は好きじゃなかったから1人でいる事の方が多かったんだ」

「そんなんで、よく運動部なんか入ろうと思ったよね」

「自分から入ろうとする訳ないじゃん。そう言えば何で僕はサッカー部なんかに入ったんだっけ?」

「覚えてないんだ?」

「何を?」

「誰かに薦められなかった?」

「う~ん…全く覚えてない」

覚えてない…

というより、その時の記憶がスッポリ抜け落ちてしまっているようだ…

まさか…

もしかして、記憶がないって事は…

僕の記憶の消失には仲村さんが関係していた。

「仲村さんに言われたんだね?」

「やっぱり、葵もそう思うんだね?」

「うん。学校に行けば、何か思い出すんじゃないかな?」

「だったらいいけど…」

それから中学校に到着して正門をぬけると、少し歩いた所に電話BOXが置いてあり、その奥には自転車置き場があった。

懐かしい気分になった。

僕は立ち止まり数年前を思い起こしていた。

何故かはわからないけど、ここの前に来ると急に胸が締めつけられた。

「誰かがここで僕を待ってた」

「誰だかわかる?」

「わかるような…」

「何か思い出したの?」

「そうじゃないけど…何となく感じたんだ」

この胸の苦しさは、仲村さんを感じた時に起きる衝動だ。

「仲村さん…部活が早く終わった時は、ここで瑛太を待ってたんだね。瑛太は、そんな幼気な女の子を冷たくあしらった」

葵は冷やかな目で僕を見ていた。

「僕は仲村さんに対して、いつもそんな態度をとってたのかな?」

何でこんな事、葵に聞いてるんだ…。

でも、葵に聞けば答えてくれると思った。

「そうでもないみたいよ。冬に仲村さんが風邪をひいて寒そうにしてると、自分がしていたマフラーと耳当てを貸してあげてた。それに、仲村さんが重たそうな荷物をイッパイ抱えていた時なんて、代わりに持ってあげてた。信じられない事に瑛太が仲村さんを待ってた事もあったんだよ。瑛太は、たまたまとか偶然とか言って認めてなかったけど…」

「意外だよ。やっぱり僕は、仲村さんを…」

「間違いなく好きだったんじゃないの…。でも、瑛太の事だから自分の気持ちに気付いてない可能性は高かったと思うし、万が一気付いてたとしても受け入れる訳ないよね」

「何か捻くれ者みたいじゃん」

「違うの?」

「言われてみれば確かにそうかも…」

もし、仲村さんが自分の気持ちを僕に打ち明けていたら付き合っていただろうか?

「行こうっ」

葵は、話題を打ち切るようにそう言った。

「葵は何処か見たい所あるの?」

「未来の塔って何?」
< 109 / 194 >

この作品をシェア

pagetop