GIFT
「未来の塔は、20歳の自分へ向けて書いた手紙を入れたタイムカプセルを保管しておく場所の事だよ。その塔がどうかしたの?」

「今日、これから開けるみたいよ」

「何でだろう?未来の塔は、僕たちが20歳になってから、みんなで集まって開けられるはずなのに…」

「理由はわからないけど開けてる姿が見えるの」

葵は閉じていた目をゆっくりと開いて言った。

そして未来の塔がある場所まで行くと、数名の先生らしき人が塔の中からタイムカプセルを運び出しては何かを探していた。

見覚えのある顔だった。

「先生っ」

「あれっ…紺野くん?」

「先生、こんにちわ。お久しぶりです」

「元気だった?」

「はい」

「全然変わってないわね」

中学2、3年の担任だった片岡恵美先生…。

美人だけど気取っている訳でもなく、その上愛嬌があるから、めちゃめちゃ可愛い。

僕の憧れの女性だった。

あの頃25歳独身恋人募集中だった片岡先生に、男子生徒の大半がゾッコンだった。

「先生も全然変わってません。相変わらず素敵ですね」

「どうしたの紺野くん?あの頃はあまり口も聞いてくれなかったから、嫌われてるのかと思ってたんだけど」

「そんな事ないですよ。只、先生は男子生徒から人気があったから、先生の回りにはいつも誰かがいたじゃないですか?話しかけようにも話しかけられませんでした」

「そうだったんだ。嫌われてた訳じゃなかったんだ。良かった…」

「嫌うどころか、先生はあの頃の僕の憧れでした」

「嬉しい事言ってくれるわね」

「本当です」

「それより、仲村さんの事…残念で仕方ないわ。悲しいし…悔しいよ」

片岡先生は目から流れ落ちる涙を手のひらで拭っていた。

「僕も同じ気持ちです」

「実は今日、未来の塔を開けてるのは、仲村さんのご両親からお願いされたからなの…」

「そうだったんですか…」

そんな日に、たまたま中学校を訪れる事が出来たなんてすごい奇跡だ。

いや、これは偶然なんかじゃない。

今日、中学校に行きたいと言ってきたのは葵だ。

どうしても今日この日じゃなきゃ駄目って言われたからだ。

全て、葵によって仕組まれた事だ。

「紺野くん、今探してるところだから待っててくれる」

「はい、待ってます」

「ところで、そちらの方は?」

片岡先生は葵を見て言った。

「瑛太、あの先生さっきから私の事何度も見てたよ。目も合ってたし…。見て見ぬフリをしてたんだよ。絶対ワザとだよ。私の事、気に入らないんだよ」

葵は周りに聞こえないように僕に耳打ちした。

「そんな事ないって」

僕も先生に聞かれないように葵に耳打ちした。

「どうかした?」

「いいえ、何でもありません。彼女は僕のかっ‥」
「友達の佐藤葵です」

「友達なの?恋人なのかと思った」

そして片岡先生は再び仲村さんの物を探し始めた。
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