GIFT
目が見えないなら私が目になって光を届ける。

腕が使えないなら私が腕になってどんな物でも持ち上げる。

脚が動かないなら私が足になって地球の裏側までだって連れて行く。

寂しい時は私が心を癒してあげる。

苦しい時は私が変わりに苦しんであげる。

好きな人が出来たなら…2人が上手く行くように、あなたを支えていく。

そして、あなたを一生愛していきます】

保健室で読んだ仲村さんの日記を思い出した。

仲村さんの想いは中学を卒業して高校に入っても何も変わっていなかった。

僕は天を仰いだ。

涙が溢れないように…

葵に涙を見られないように…

でも、この涙は抑える事など到底無理だった。

1度流れ出た涙は、次から次へと溢れ出して止められなかった。

すると隣にいた葵が静かに腕を組んできた。

それからしばらくの間、葵は何も言わずに、ただ寄り添っていてくれた。

「どうしたの?」

「仲村さんてスゴいよ。瑛太の事、本気で想ってる。仲村さんの全てで愛してる。私には敵わないよ」

葵は肩を震わせながら、そう言った。

「そんな事ないよ。葵は僕と高校で出逢うまで、ずっと僕を待ち焦がれていてくれたじゃないか。今だって僕だけを愛してくれてる。それは、すごい感じるよ」

葵は僕の胸に顔をうずめると、力いっぱい抱きついてきた。

だから僕も強く抱きしめてあげた。

「ありがとう…。でも私、瑛太の事そんなに愛してないよ」

葵のそんな照れ隠しの憎まれ口も愛しく思えた。

「あ~あ~。やっぱり紺野くんの彼女だったのかぁ」

声のする方に振り返ると、片岡先生が立っていた。

「先生…すいません。隠すつもりはなかったんです」

僕は先生に深々と頭を下げた。

「気にしないで。全然隠せてないし、最初からわかってたから」

「やっぱり、そうですよね?」

「そうね。それじゃあ私は用は済んだから、ここを片付けて帰るからね。紺野くんは、これからどうするの?」

「僕らは、もう少し校内を見て回ってから帰ります」

「そうなんだ。今度みんなで集まって食事でもしましょうね」

先生はメチャメチャ素敵な笑顔でそう言った。

やっぱり僕らの青春の先生だ。

「はい、楽しみにしてます」

「じゃあね、紺野くん。え~と…」

「佐藤葵です」

先生が葵を見て少しばかり首をかしげていたので、葵は間髪入れずにそう言った。

「佐藤さん、またお会い出来たらいいですね」

「えぇ…」

葵は何故か不機嫌そうに答えた。

「先生、さよなら」
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