GIFT
それから僕らは先生と別れて校庭に向かって歩いているけど、どうも先程から葵の機嫌が直らないでいた。

「何で怒ってるの?」

「言いたくない…」

「言わなきゃわかんないじゃん」

「言わなくてもわかってよ」

「僕は能力者じゃないんだ。言ってくれよ」

「だって…あの先生、瑛太の事気に入ってたみたいなんだもん」

「そんな事ないって。片岡先生は誰にでも優しくて、生徒想いで、教育熱心で、かわいくて、本当に素晴らしい先生なんだよ」

「“かわいくて”って言うのはよくわかんないけど、絶対に騙されてるんだって」

「先生を悪く言うなって」

「だって…」

すると葵は僕をおいて、スタスタと急ぎ足で行ってしまった。

僕も慌てて直ぐにその後を追った。

「着いてこないで。少しだけ、いつものように1人にして…」

「わっ‥わかった」

そして、いつもしてるように葵を1人にして僕はその場を離れた。

それからしばらくして葵は僕の所に戻って来た。

さっきの不機嫌そうな顔は何処へ行ってしまったのかと思う程、晴れ晴れとした顔をしていた。

何故かはわからない。

「瑛太…やっぱり、さっき言った事は訂正する」

「何の事?」

「片岡先生の事…。すごく良い先生みたい。誰にでも優しくて、生徒思いで、教育熱心で、かわいくて…」

「そっ‥そうだよ。だから言ったじゃないか」

「さっきはゴメンなさい」

「別に謝らなくてもいいよ。わかってもらえれば…」

でも、何で急に心変わりしたんだろう?

この数分の間に何かがあったのは間違いないけど、その理由を聞くような事はしない。

それは葵を信じて見守ろうと決めた時から、余計な詮索はしないというのが僕の中でのルールになっていたからだ。

それから校内を一通り見て回ってから、中学校を後にした。



それから数ヵ月が経ったけど、久しぶりに葵から見に行きたい場所があると言われた。

いつもなら僕の地元の駅で待ち合わせをするけど、今日は葵が乗り降りしているK駅で待ち合わせをしていた。

K駅に着いて改札を抜けると葵が手を振って合図を送ってくれた。

「お待たせ。今日は何処に行くの?」

「今日はW高校と駅から車で20分くらいの所にある空地に行こうと思ってるの」

「そうなんだ。僕は何処でもいいよ」

今日は、W高校と空地か…。

W高校は県内でも有名な秀才校で、偏差値70以上なければ絶対入れないくらいレベルが高い。

僕も1度は第1志望に挙げて頑張っていたけど、あまりにもレベルが高くて諦めたくらいだ。
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