GIFT
「わかりました。お母さん、疲れたら呼んで下さいね」

「まだ大丈夫じゃ。心配せんでもええ」

「そのようですね」

そうして病室を出て行く母の顔には涙が溢れていた。

「瑛太、お嬢ちゃん、こっちにおいで」

まさおばあちゃんは、そう言って僕らをすぐ傍まで呼んだ。

「瑛太…ワシは最後にお前さんに会う事が出来た。ワシは、もういつ死んでも悔いはない」

まさおばあちゃんの声は、いつもの元気な声とは全く違い、とても弱々しかった。

考えたくもなかったが、死という言葉が脳裏をよぎった。

「何弱気な事言ってるのさ」

「そうだよ。おばちゃん、元気になって色んなお話し聞かせてよ」

「お嬢さん、お前さんは?」

「佐藤葵と言います」

「僕の彼女なんだ」

「そうじゃったか…前に何処かで会った事があったかのう?」

「いいえ、初めてです」

「ワシの勘違いかのぉ?それにしても、あの時のお嬢さんとよく似とるのぉ」

「あの時?まさおばあちゃん、あの時って?」

「いっ‥いいんじゃよ。ワシの勘違いじゃ」

「そうなの?」

まさおばあちゃんが何かを隠そうとしているのはわかった。

「それより2人は結婚まで考えておるんかい?」

「うん…結婚する」

僕と葵は顔を見合わせた。

「そうか…見たかったのう」

「何を?」

「ひ孫の顔じゃよ…」

「まさおばあちゃん…そんなに見たい?」

「あぁ…見れるもんならな」

「葵…」

僕は何も言わず葵を見つめた。

葵ならわかると思った。

「わかった」

葵は笑顔でそう答えた。

「おばあちゃん、ちょっとゴメンね」

葵は、ベッドに寝ているまさおばあちゃんの手を握って目を閉じた。

「あぁぁぁぁ…‥」

まさおばあちゃんは、長い時間瞬きもせずに目を開けたままでいた。

そして数分後…葵は繋いだ手をゆっくり離すと、まさおばあちゃんの顔を覗き込んでいた。

「おばあちゃん、大丈夫?」

「あぁ、大丈夫じゃ…。それより今のは?」

「おばあちゃんが見たがっていた私達の娘です」

葵は、あんな風に言ったけど、まさおばあちゃんが信じるとは、とても思えなかった。

「なるほどなぁ…あの子がそうじゃったのか…。そうか、そうか…」

まさおばあちゃんは、1人で何かを呟いていた。

「他に何か見たい物はある?」

「ありがとう、お嬢さん。もう十分じゃ。この世に未練など何もありゃせん」

そう言うとまさおばあちゃんは、ゆっくりと目を閉じて動かなくなった。

えっ…

まさか…

「まさおばっ…」

「瑛太っ…大丈夫。寝てるだけみたいよ」
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