GIFT
さよなら…
それから数日後…葵と娘の遥香は家に帰って来た。

本で読んで知ってはいたが、赤ん坊というのは寝てるか、オッパイを吸ってるか、泣いてるかだった。

それは決められた時間などなく、朝でも昼でも夜でも夜中でも不定期に行われていた。

さすがの葵も初めての子育てに、グロッキー状態だった。

世の中のお母さん達が育児ノイローゼになってしまうのもわからないでもなかった。



そして、遥香が産まれてから数ヵ月が経った。

この頃から…

いやっ…もっと前からだったのかもしれないけど、葵の体には異変が起こっていた。

具体的には、異常な程疲れやすくなっていたし、疲れると直ぐ横になり数時間眠り続けるといった調子だった。

もちろん僕は心配になり病院に行くのを進めた。

でも葵は僕の言葉に全く耳を貸そうとしなかったし、病院に行かなかった。

だから葵の体調は一向に良くならなかったし、少しずつだけど悪くなっているようにも思えた。

葵が病院に行かないのには理由があった。

その理由がある限り、葵は絶対に行かないだろう。

それなら葵の為に僕が出来る事と言えば、葵の体にかかる負担を少しでも軽減してあげる事だった。

仕事から帰ると、フロ掃除や食後の洗い物、ゴミ捨てなどをした。

それに遥香が産まれてからずっとやってきた事だが、ミルクを飲ませたり、オムツの交換をしたり、寝かしつけたりと、育児にも積極的に参加した。

そんな僕を見て、葵はとても感謝してくれたし、心配する僕の為に無理して元気を装っていた。

でも本当は葵の体はボロボロで限界が近付いていた。

そして、とうとう恐れていた事が起きてしまった。

「ただいまぁ」

「・・・・・」

「あれ?」

僕が仕事から帰ると、いつもなら玄関まで出迎えてくれる葵が現れなかった。

直ぐに嫌な予感が頭の中をよぎった。

「葵っ」

走ってリビングに向かうと、葵がうつ伏せの状態で倒れていた。

遥香はベビーベッドの中で何事もなかったように笑いながら、おしゃべりをしていた。

「葵っ、葵っ…」

僕は葵を抱きかかえると、何度も名前を呼びながら頬を軽く叩いた。

「・・・・・」

「葵っ」

「えい…た…」

すると葵は1度だけ目を開いて僕の名前を呼んだ。

でも、再び意識を失った。
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