GIFT
「葵がそんな事を…」

それから僕は恐る恐る診察室に入り、葵が眠っているベッドの横に椅子を置いて腰掛けた。

葵は穏やかな顔をして眠っていた。

まるで死んでしまってるかのように…。

心配になり、葵の口と鼻に耳をあてて呼吸をしているか確認した。

息をしていた…。

よかった…。

「瑛太…ゴメンね」

先生が言ってた通り、葵はうわ言のように、何度も何度もそう言っていた。

それに涙を流していた。

その日は葵が目を覚まさなかった為、僕も大橋医院に泊めてもらう事になった。



数日後…

そんな事があったばかりなのに、葵は何事もなかったように、家事と育児に励んでいた。

僕が止めたところで、素直に寝ているような葵ではなかったので余計な事は言わずにいた。

言わなくても僕が考えている事などお見通しに決まっている。

それなら、葵のやりたい事をやりたいだけやらせてあげる事にした。

葵の体調は決して良くはなかったが、1週間に1度は大橋医院に行って診察を受けてくれるようにはなったので多少安心はしている。

栄養剤の注射をしてもらったり、内臓の機能を回復させる薬を処方してもらって飲んでいたので、症状が急激に悪くなる事はなかった。

だから葵は体の動くうちに今出来る事を全力でやっていた。

僕に内緒でやっている事も幾つかあった。

葵は僕が知らないと思ってるかもしれないけど、僕は知っていた。

何か贈り物を買っては誰かに送っていたという事…

それは今でも継続されているという事…

また、手作りのケーキを頻繁に作っているという事…

僕の前で作ると、要らぬ事を根掘り葉掘り聞かれるので、僕が仕事でいない時を狙って作っているという事…

それは僕が知る限り、20個近くも作られ続けているという事…

また毛糸を買ってきては編み物をしたり、紙や小さな小物や材料を使っては何かを作っているという事…

小やぎの衣装?もあった。

その他には、食器や日用品などが何処に何があるのかが誰にでもわかるように、テプラで印刷したシールを至る所に貼っているという事…

これだったら葵がいなくても…

それに、僕に聞かれないように誰かと電話でまめに連絡を取り合っているという事…

因みに、その電話は葵からの時もあるし、相手先から掛かってくる時もあった。

誰と話しているのかは気にはなったけど、いずれわかる時が来るのはわかっていたので、今はソッとしておいた。

そして毎晩…

僕と遥香が眠りに着くと、葵はいつもキッチンで必死に声を押し殺して泣いているという事…
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