GIFT
「紺野くん…」

誰かが僕を呼ぶ声が聞こえた。

「誰?」

辺りが薄暗いうえに、目に入った血が邪魔して、こちらに向かって歩いてくるシルエットしか見えなかった。

「私…」

「もしかして…あおっ‥」

「遠藤です」

「えっ…」

「ゴメンね、私で…」

すると月明かりに照らされて、次第に輪郭がハッキリとしてきた。

「えっ‥遠藤さん…どうしてここに?」

「そっ‥それは、葵ちゃんに頼まれたから…」

「何をですか?」

「紺野くんと遥香ちゃんの身の回りのお世話を…」

「もしかして最近、葵が電話で連絡を取り合っていたのって?」

「私…」

「・・・・・」

「ここに来たのは、葵ちゃんに『10月13日の瑛太と遥香の誕生日の20:43分くらいに私は、この世界から消えてなくなると思う。出来ればその時間に私たちの家を訪ねて欲しいの。もしかしたら、瑛太は何かを勘づいて、この場所に来るかもしれないけど…。その時は直ぐに迎えに行ってあげて。瑛太の事だから衝動的な感情で私の後を追いかねないから』そう言われたから…」

「わかってるなら…1人にして下さい」

「1人になってどうする気なの?」

「・・・・・」

「まさか死ぬ気じゃないでしょうね?」

「葵の所に行かせて下さい。葵は意外に寂しがり屋だから、僕がいてあげないとダメなんです」

「そんな事許す訳にはいかない。遥香ちゃんはどうすの?」

「遠藤さん…遥香をお願いします」

「お断りします」

「どうして?葵に頼まれて来てくれたんじゃないんですか?」

「もちろんそうよ。でも、私は紺野くんと遥香ちゃん2人のお世話と言われたの。遥香ちゃん1人だけなら私は外国に戻るわ」

「・・・・・」

「それに紺野くんは過去に1度命を救われたんだよね?」

「仲村さんに…」

「そう…。紺野くんを命懸けで助けて亡くなった彼女の思いを裏切る事になるんじゃないの? それに…両親がいなくなって1番可哀想なのは遥香ちゃんなんじゃないの?遥香ちゃんを親のいない子にしてしまっていいの?いい訳ないよね?」

「わかってます…。わかってますけど、苦しいんです。寂しくて切なくて胸が張り裂けそうに痛いんです。心が葵に会いたいって泣いてるんです…。死んでもいいから会いたいって叫んでいるんです…。葵に会いたい…会いたいんです…」
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