GIFT
「本当にすいません…」

「あんな風に素っ気なくされるの慣れてるんで、本当に大丈夫よ」

僕が反省して落ち込んでいる様子を見て、遠藤さんはあんな言い方をしてくれたに違いない。

「慣れてるって言ったって…」

「嘘だと思ってるでしょ?でも本当なのよ。学生の頃好きな男子がいたんだけど、その人私にスゴく冷たいというか、素っ気ない態度をとるの。そのくせ、時々優しくしてくれるのよ。訳わかんないでしょ?そんな関係が何年も続いていたから、冷たくされたり素っ気なくされるのに抗体が出来ちゃったんだよね」

「こんな美人で素敵な女性に、そんな態度をとるなんて、ヒドイ男がいるもんですね」

「そうね。とんでもない男だったわね」

「最低ですね」

「えぇ…。でも好きだったの」

遠藤さんなら、そんな男をわざわざ好きにならなくても、いくらでも素敵な男性と付き合えたに違いない。

それでも、そんな最低男を好きになってしまうんだから、女心はわからないものだ。

「僕も学生の頃は、好きな女の子にはそんな感じだったかもしれません…」

「そうね」

そうね?

「そんな風に見えます?」

「そっ‥そんな事ないわよ」

「本当ですか?」

「えぇ、まぁ…」

遠藤さんは何故か目を合わせようとしなかった。

きっと遠藤さんの目にも僕は冷たく素っ気ない男に映っていたんだろう…。

「家に戻って朝食を食べましょう」

「“そんな気分じゃない”って言ってなかったっけ?」

「そんなヒドイ事言いましたっけ?」

「言っただろ…」

遠藤さんは僕に聞こえないように突っ込みをいれていたけど、しっかり聞こえていた。

でも僕は、そんな遠藤さんの言葉を無視して先へ先へと歩いて行った。

「ちょ‥ちょっと紺野くん…全然…かわっ…ないじゃん」

遠藤さんが後ろから僕に向かって何か言ってるのはわかったけど、声が小さ過ぎて聞き取れなかった。

そして、この日から遠藤さんは僕らと一緒に暮らす事になり、僕と遥香と遠藤さんは家族になった。

遠藤さんの1日はというと、朝5時に起床して朝食を作るところから始まる。

この時に僕の昼食のお弁当も一緒に作ってくれる。

それから僕を7時に送り出した後、遥香の育児をしながら掃除洗濯など家の事を一通りする。

昼過ぎには晩ご飯の買い物に出かけ、17時くらいから晩ご飯の支度を始める。

そして僕が帰って来る19時にはキッチンのテーブルの上には、いつも料理が並べられている。

朝食も夕食も遥香が大人しくしている時は一緒に食事をする。

ここからが僕の出番な訳だが、夕食を終えると遥香の育児をバトンタッチする。

イクメンパパに変身するのだ。
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