GIFT
「葵ちゃん…」

「美咲ちゃん、今日まで2人をありがとう…」

葵も遠藤さんも、ボロボロ涙を流していた。

「葵ちゃん…私、葵ちゃんの代わりが出来たかな?」

「もちろんだよ。美咲ちゃんは遥香にとって最高のお母さんだよ」

「そんなんじゃない…。私はただの家政婦だよ…」

「美咲ちゃん…私に遠慮する事ないよ。遥香を育ててるのは美咲ちゃんなんだから。でもね…私にだって意地はあるんだよ。だって私がお腹を痛めて産んだ子なんだから…。遥香を産んだ母親は私…遥香を育てている母親は美咲ちゃん。これじゃダメかな?」

「私、絶対守って行くから。葵ちゃんの分も頑張って育てて行くから」

「2人をお願いします…」

「うん…」

そして過去の葵と遠藤さんの会話は終わった。





それから数ヵ月後の4月8日、遥香は幼稚園に入園した。

入園をしてからの遥香は沢山の友達、素晴らしい先生に巡り会えたようで、幼稚園での生活を毎日楽しく送っているようだ。

だから、僕が仕事から帰って来ると毎日のように幼稚園であった出来事を何度も聞かせてくれた。

今日もいつものように遥香の話を聞いていると

「私も同じ話を何度も聞かされたのよ」

一緒に話を聞いていた遠藤さんが僕の耳元で囁いた。

僕と遠藤さんは目を合わせクスクスと笑った。

「にゃにわらってるんでしゅか?ちゃんときいてくだしゃい」

「僕も遠藤さんもちゃんと聞いてるよ」

「にゃらいいけど…。それでね…こんど、おゆうぎかいでやぎしゃんをやるにょ」

「やぎしゃん?」

「オオカミと7匹の子やぎをやるんだって。それで、は~ちゃんは子やぎの役をやるの」

僕が不思議そうな顔で遥香を見てると、遠藤さんが解説してくれた。

こういう事は日常生活の中でもよくあり、僕がわからない遥香の言葉でも遠藤さんにはわかるらしく、時々こうして説明してもらった。

「子やぎの役か…何か用意する物とかあるの?」

「子やぎの衣装を作って持ってかなきゃいけないんだけど…私、縫い物とか苦手なんだよね」

子やぎの衣装…

前に何処かで見たような?

あっ!?

なるほどそういう事だったのか…。

「だいにょうぶ」

「何が?」

「大丈夫なんですよ」

遠藤さんは遥香と僕の“大丈夫”の意味がわからず首を傾げていた。



キィ―――――ン……

すると以前にもあった、耳鳴りと頭を絞めつけられるような痛みに襲われた。

「ヤッター。やぎしゃんだ~」
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