GIFT
遥香の声で目を開けると遥香の手には、あの時見たやぎの衣装があった。

「これって…葵ちゃん?」

「はい。だから大丈夫って言ったじゃないですか」

「ちゃんと用意してくれていたのね」

「葵は僕に気付かれないように、いつも隠れて何かを作ってくれてました」

「葵ちゃんにはかなわないなぁ…」





それから数ヵ月後、幼稚園のおゆうぎ会が行われた。

練習の甲斐あって、とても可愛くて楽しい“オオカミと7匹の子やぎ”を見せてもらった。

葵も遥香の子やぎの姿を未来の映像として見ていたのだろうか?

そして、おゆうぎ会が終わり、遠藤さんと教室の外で遥香が出て来るのを待っていた。

すると遥香がニコニコ笑いながら走って来た。

「パパ~、みさきちゃん、こりぇみてっ」

遥香の首から手作りの金メダルが提げられていた。

「は~ちゃん、どうしたのこれ?」

「ママにもらったにょ。ママみてくれてたにょ」

金メダルを手に取って裏返してみると“1番かわいい子やぎでした。ママより”そう書かれていた。

葵は、やっぱり見ていてくれた。

それは今回ばかりではなく、この後2年間の幼稚園生活で催されるおゆうぎ会、運動会、太鼓の演奏会などの行事があれば葵は必ず遥香の晴れ姿を見ていてくれた。

そして必要な物があれば作って、過去から送ってくれた。

白雪姫の衣装や、ボンボンやダンスの衣装などの小道具を作ったりと、ありとあらゆる物を用意してくれた。



幼稚園の卒園式を終え、3人で家に帰るとリビングのテーブルの上に包装紙に包まれた直方体の箱とハート柄の袋でラッピングされたプレゼントが置かれていた。

遥香は早速箱と袋を開けて中身を見ると大はしゃぎで喜んでいた。

すると遥香は直ぐさまそれを背中に背負って、僕と遠藤さんに見せてきた。

ピンク色のランドセルだった。

袋の中身は、遥香の大好きなディズニーのキャラクターのついた可愛い筆箱と2Bの鉛筆1ダース、消しゴム、色鉛筆、クレヨンが入っていた。

小学校入学まで1ヶ月もないのに、ランドセルと筆記用具を未だに買っていなかった。

それは遠藤さんに止められていたからだ。

どうやら葵は遠藤さんだけには知らせておいたようだ。

プルルルル…プルルルル…‥

「葵っ」

僕は誰からの電話なのかを確認をする事なく名前を呼んだ。

「瑛太…」

僕と葵はテレビ電話越しに、しばらくの間見つめ合った。

それで十分だった。

「遥香を呼んでくる」

「うん…」

「遥香っ」

ランドセルを背負って、部屋中を走り回っている遥香を呼んだ。

「パパ、なに?」

「ママだよ」

「ママ……ママ~……」
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