GIFT
遥香は葵の姿を見るなり、スマホの前で跳び跳ねて喜んでいた。

それから葵から遥香と2人きりにして欲しいと言われたので、リビングから出て行った。

だから2人で何を話をしていたのかはわからない。

5分くらいすると遥香に呼ばれて再びリビングに戻って来た。

「遥香、何手に持ってるの?」

「おしえませんよ~だ」

「どうして?」

「だってパパは、たいせつなものなのに、なくしたんでしょ?」

「大切な物?なくした?」

「そうだよ」

「もっ‥もしかして…時計の事?」

「おぼえてたんですか?」

「忘れる訳ないよ」

「そうですか…。それなら、これあげるです」

遥香の小さな手から僕の手に渡された。

時計が入っていたケースだった。

それは僕の誕生日に葵からもらった大切な宝物の時計…。

「葵、これ空のケースなんだよ」

僕は直ぐさま画面の向こう側の葵に話しかけた。

「えっ…どうして?あの日の夜、瑛太が眠っている隙に間違いなく瑛太の机から時計が入ったケースを持ち出したのに…」

「実は…その直ぐ後、葵が風呂に入っている間にケースから抜き取ったんだ」

「ウソっ…」

「だから僕の時計はここにあるよ」

「じゃあ…私が見た未来って?」

「僕が時計をなくして落ち込んでいる映像を見たんでしょ?」

「うん…」

「だから葵は、なくす前の僕が持っている時計を未来に送ろうとした」

「そうだよ…。でもどうやってそれを知ったの?」

「葵は、いつもキッチンのカレンダーに予定を書いたりメモ帳代わりに使ってたでしょ?」

「してる。もしかして…」

すると画面の向こう側の葵は、何処かへ走って行ってしまった。

「カレンダー見ちゃったんだね?すっかり消すの忘れてた…」

葵はキッチンにあるカレンダーを持ってくると、画面越しの僕にそれを見せてくれた。

カレンダーのある日付には…

“瑛太時計なくす”そう書かれていた。

「実は…この事は時計をなくす予定日の1週間前に気付いたんだ。最初は何の事だかわからなかったけど、葵が時計を持ち出した時に全てが繋がった。僕が時計をなくしたのって、葵が未来に送ってしまったからなんではないかって」

「それじゃあ、時計がなくなった原因を作ったのって私って事?」

「そうかもしれないけど、葵は悪くないよ。葵の凄すぎる能力が逆に仇になったってところかな…。黙っていたのは謝るよ。でも、葵のした事にはきっと意味があると思って黙っていたんだ。ごめん…。だけど、今この世界では僕の時計はここにある。僕は自分自身で未来を変えたんだ」

「でも、私は確かに未来の瑛太が時計をなくして落ち込んでいる映像を見たの…。もしかしたら、私が未来を変えようとした事で、もう1つの別の違う未来が存在してしまってるのかもしれない…」

「そんな事が起こってしまうものなの?」

「えぇ…信じられないけど時々起こる事なの」
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