GIFT
しばらくすると手術室からオペを終えたばかりの外科医が出てきた。

「手術は無事終わりました。手術の経過を見て退院してもらいますが、1~2週間は入院が必要です」

「先生ありがとうございました。先生は息子の命の恩人です」

えぇぇぇぇっ…

命の恩人って…

階段から落ちて骨折っただけなのに…

何言ってんだこの人は…

それに涙まで流して泣いてるし…

やっぱり千葉の母親だ…

「お母さん…大袈裟ですよ。足の骨を折っただけですから…」

迷惑そうな顔をした外科医は、一礼すると何も言わず行ってしまった。

それから手術室から出てきた千葉は担架に乗せられたまま病室まで運ばれたが、局部麻酔だったため、意識はハッキリしていた。

そして、千葉がベッドに移され病室が落ち着いてきた頃、千葉の母親は飲み物を買ってくると言って、1階にある売店に向かった。

「千葉、お前何で階段から転げ落ちたんだ?」

僕の聞きたい事を松下が先に聞いてしまった。

「そっ‥それは…」

「何だ? ハッキリしろ!」

声がデカい。

あいにく個室だからいいようなものの…

「ここは病院ですよ」と言ってやりたかった。

でも、こっちに飛び火しそうなので止めといた。

「先生…ここは病院なんですから少しボリューム下げた方が…」

千葉、余計な事を…

「はぁ? オメエは何様なんだよ!」

すると松下は千葉の両頬をつまむと、引っ張ったりツネッたりを何度も繰り返していた。

「イテテテテ…先生、イテエよ」

「イテエか? だったら何で階段から転げ落ちたのか言ってみろ!」

「階段の1番上から下までジャンプして飛び降りようとしたんですよ。でも、ジャンプの直前に足がもつれてそのまま階段から転げ落ちました」

やっぱり…

千葉、お前バカ過ぎるよ。

「はぁ…お前はどうしていつもそうなんだ。今度こんな事したら、ただじゃ済まさないからな!」

「わっ‥わかりました。肝に命じておきます」

千葉の母親が戻って来るまでの数分間、千葉は松下にいいようにイジラレていた。

そして千葉の母親が戻ってくると松下と母親の2人は病室から出ていった。

「はぁ~疲れた。あいつマジでムカつくよ。絶対いつかは痛い目に合わせてやるからな!」

千葉は仰向けに寝たまま、布団を何度も何度も叩いていた。

「千葉…やめとけって。聞こえるぞ」

「構わねえよ。聞こえたって知ったことか!」

こいつは、まだ松下の恐ろしさがわかっていない。

「千葉、何か言ったか?」

松下は病室の入口から顔を覗かせてそう言った。
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