GIFT
遥香が急にピアノを習いたいと言ってきた事があった。

能力とピアノ…

何の関係もなさそうだけど、遥香が自ら進んでやりたいと言ってるし、もしかしたら天才的な才能を発揮するかもしれないと思ったので好きにさせてあげた。

練習は週3回、17時から18時に駅前のピアノ教室でレッスンを受けていた。

初めのうちは直ぐに飽きてしまい、そんなに長く続くと思っていなかった。

でも気付いてみたら、ピアノを始めて1年近くが経っていた。

「遥香、ピアノやってて楽しい?」

「うんっ。ちょ~たのしいよ」

「そっか、それはよかった。それで先生はどんな感じの人なの?」

「う~ん…女の先生だよ。優しくて明るくてとってもキレイな人だよ。ピアノのコンクールでも何度も優秀賞をもらった事があるくらい、めちゃめちゃ上手なんだぁ」

「そうなんだ。会ってみたいな」

「でも、先生結婚してるよ」

「残念でしたね」

話を聞いていた遠藤さんが僕を見て言った。

「そんなんじゃないから…」

「は~ちゃんが、ピアノを続けられてるのは、もちろん楽しいからなんだけど、もう1つは中学2年生のお姉ちゃんと友達になって、いつも面倒を見てもらっているからなの。紺野くんには言ってなかったけど、時々家に遊びに来てもらってるんだよ。ねぇ、は~ちゃん」

「うんっ。は~ちゃん、お姉ちゃん大好き。いっぱい遊んでくれるし、いっぱい色んな事教えてくれるもん」

「そんな大きな友達がいるなんて全然知らなかったよ。今度会わせてよ?」

「難しいと思う。彼女、今度受験で19時には家に帰らなきゃいけないし、土日も塾に通ってるみたいだから」

遠藤さんが遥香の代わりに説明してくれた。

「そうなんだ…。残念だな」

「でも、近いうちにパパもお姉ちゃんに会う事になるよ」

「近いうちにか…」

遥香には未来のその映像が見えているようだ。

葵のように…。

遥香が小学生に入学してから、僕は仕事で全国に出張でする事が増え、毎月数日は家を空ける事が多かった。

だからこそ休日の時は、必ず僕と遥香と遠藤さんの3人で過ごすようにした。

色んな場所に遊びに出掛けたり、買い物に行ったり、外食したり、泊まりで旅行に行ったりもした。

それでも、遥香には寂しい思いをさせていたのかもしれない。

だから仕事で家にいない時も、出張に行ってる時も、会えない時も、どんな時も連絡を取り合った。

電話で話をする時もあれば、メールでやり取りする事もあった。

「パパがいなくても寂しくなんかないよ。美咲ちゃんがいつも一緒だもん。ただし、頑張りすぎて体だけは壊さないようにしてね」

ある日突然、遥香からそんな事を言われた事があった。

僕の思いも心配も遥香にはお見通しって訳だ…。

本当に葵みたいだ…。

「ですって。は~ちゃんと家の事は私が守るから、安心して仕事に専念して下さい」

「ありがとう…」
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