GIFT
「島崎先生…」

遥香の言う通り、あの時と同じになった。

「先生、遥香がお世話になっています」

「まさか本当に、君の娘の担任になるとは思わなかったよ」

「葵のあの言葉ですね」

「聞いた時は何の事かわからなかったけど、10年経ってようやく君の奥さんの言葉の意味が理解できたよ」

「偶然って怖いですね」

「そうだな…。でも、本当に偶然なのか?」

「どういう意味ですか?」

「君の奥さん、未来が見えてたんじゃないのかと思ってな。そうじゃなきゃ、あそこまで言い当てる事は出来ないんじゃないか…」

「まさか、未来が見えるなんて…葵にそんな能力はありませんでしたよ」

「そうか…」

島崎先生は納得のいかない顔をしていた。

「先生、教室に忘れ物しちゃったんですけど、取ってきてもいいですか?」

「来客用の玄関の鍵が開いてるから、そこでスリッパに履き替えて行きなさい」

「は~い」

「それと、帰ったら算数のドリルをよく見ておきなさい」

「26~31ページでいいんですよね?」

「そっ‥そうだが…」

遥香は閉じていた目を開けると、何かを見たかのようにそう言った。

「ありがとう、先生…」

「いっ‥いいから早く行きなさい」

遥香は先生に手を振ると嬉しそうに走って行った。

「先生、いいんですか?あんな事教えちゃって…」

「私は、ドリルを見とくように言っただけだ。それに10年前、君の奥さんに“娘の遥香が5、6年生でお世話になると思いますのでヨロシクお願いします”そう頼まれたからな」

「いつも良くしてくれてるって聞いています。本当にありがとうございます」

「それより奥さんの事だが、気持ちの整理はついたのか?」

島崎先生は聞きづらそうな顔で尋ねてきた。

「はい。葵はいつも僕たちを見守ってくれてますから」

「そうか…。それより、君も教室に行ってきたらどうだ?紺野の彼女さんもどうですか?」

「えっ…私ですか?」

「そうですけど、違うんですか?」

「いっ‥行きます」

遠藤さんは、嬉しそうに笑顔で答えた。

それから僕と遠藤さんも遥香の後を追った。

「私、紺野くんの彼女だって」

「嬉しそうですね?」

「いけない?」

「どうでもいいけど…」

「どうしてそんな言い方しか出来ないかな…」

僕の素っ気ない言葉に、遠藤さんは少しばかり腹を立てたようだ。

そして教室に着いて中に入ると、遥香が窓際にある机の下に潜り込み、何かをしていた。

「遥香、何してるんだ?」

「パッ‥バパ…。こっ‥これパパが座ってた机だよ…」

遥香のあの言い方…

あの表情…

絶対に何か隠している。

「遥香、何か隠しっ‥」

プルルルル…‥プルルルル…‥

僕のスマホが突然鳴り出した。

テレビ電話だった。

「葵…」

「瑛太、ここに来るのは久しぶりでしょ?」

「葵と来たのが最後だよ。もしてかして今、小学校の教室にいるの?」

「そうだよ…よくわかったね?」

「葵の後ろに黒板が見えるし、黒板の横の壁に生徒が書いた落書きがあるから僕の教室だって直ぐにわかったよ」

「ふ~ん、スゴイじゃん」

「それより体育館の前にいる僕とは電話で話をしたの?」

「未来の瑛太に電話するちょっと前に話をしたよ」

「それなら、あと10分もしないで僕がやって来るよ」

「わかった」
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