GIFT
「げっ!? 松下…先生…‥。ぼっ‥僕は寝てたから何の事だかわかりません。たぶん紺野が言ったんじゃないんですか?」

「おいっ」

千葉のやつ…‥

「紺野、そうなのか?」

「僕じゃありませんよ。千葉ですよ! 千葉が言ってるの聞いてました」

どうだ千葉!

「やっぱりそうだったか。なるほどなぁ…それで、いつ痛い目に合わせてくれるんだ?」

やっぱり、聞かれてたんじゃん。

言わんこっちゃない。

「Zzz…Zzz…‥」

ここまで来て寝たフリって…‥

往生際が悪すぎるだろ!

「おいっ紺野、まさか千葉は寝てないだろうな?」

寝たフリだとわかってはいたけど、とりあえず確認する素振りはみせた。

「ねっ‥寝てるみたいです」

「マジか…何考えてんだコイツは…‥」

「普通じゃないんですよ、千葉は…‥」

「千葉に“さっさと治して学校に来い”って言っとけ!」

「わかりました」

それだけ言うと、松下は黙って病室をあとにした。

「Zzz…Zzz…‥」

千葉は、まだ寝たフリをしていた。

「千葉、もう行ったから大丈夫だぞ」

「Zzz…Zzz…‥」

「おいっ、まさか本当に寝てるのか?」

千葉の体を揺さぶってみたが何の反応もなかった。

どうやら本当に寝ているようだ…。

コイツはある意味、天才かもしれない。

こんなバカには付き合いきれない。

さっさと帰ろう。



病室を出ると階段で1階に向かった。

「あれ?」

4階から3階に階段を下りて行く途中、葵さんらしき人が前を横切ったのが見えた。

慌てて後を追うと、305号室の病室に入って行った。

僕は、少し離れた物陰から葵さんの様子を伺っていた。

しばらく待っていると小学1~2年生くらいの女の子と葵さんが楽しそうに笑いながら病室から出てきた。

「それじゃあ、お姉ちゃん帰るからね」

「やだっ…帰らないで。もっといて」

女の子は葵さんが帰るのを引き止めていた。

「茉菜ちゃん…お姉ちゃん、また明日来るから心配しないで」

「本当に?」

「本当だよ。約束する。大丈夫だからベッドに戻って」

「絶対だよ!」

「わかった!」

葵さんは笑顔でVサインをして応えていた。

こんな葵さん、見たことなかった。

すると女の子は手を振りながら病室に戻って行った。

葵さんは女の子が病室に入るのを見届けると、何かを探すかのようにキョロキョロと辺りを見回し始めた。

何を探してるんだろう?

「紺野さん…」

葵さんは確かにそう言った。

「ここで会うはずなんだけどな…」

言ってる意味はよくわからないけど…間違いなく葵さんはそう言っていた。
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