GIFT
葵さんは、どうやら僕を探しているようだ。

僕は、何食わぬ顔をして物陰から出て行った。

「こっ‥紺野さん…」

僕に気付いた葵さんは、直ぐに歩み寄ってきた。

「葵さん…こんな所で会うなんて奇遇ですね。誰かのお見舞いですか?」

「はっ‥はい。五十嵐茉菜ちゃんて言う小学1年生の女の子のお見舞いに…。紺野さんは、千葉くんの付き添いでしたっけ?」

「そうなんですよ。来たくて来た訳じゃないんですけどね。それより、何で千葉が病院に運ばれたって知ってるんですか?」

「“何で?”ってどうしてですか?」

「だって葵さん、帰りのホームルームが終わると直ぐに帰っちゃったから知らないはずですよね?」

「あっ‥あれですよ。あれ…‥」

「“あれ”って?」

「とっ‥友達から聞いたんですよ」

「友達?」

「みさ…じゃなくて、仲村さんですよ…」

葵さんと仲村が連絡を取り合うほど仲が良いなんて初めて聞いた。

「仲村ですか?」

「そっ‥そうですけど、何か疑ってます?」

僕の言い方が悪かったようだ…。

「そんな事ないですよ。それよりあの子どこか悪いんですか?」

「・・・・・。ちょっと外に行きましょう」

それだけ言うと、葵さんは僕の返答を待たずに歩き出してしまった。

そして、正面玄関を抜けて外に出ると、中庭にある大きな木の下まで歩いて行った。

それまでの間、葵さんは一言も言葉を発さなかった。。

「葵さん、どうしたんですか?」

「茉菜ちゃん…あと少しの命なんです」

やっと口を開いたかと思えば…とても信じられないような事を言ってきた。

「ちょっと冗談キツ過ぎますよ」

「本当なんです…」

葵さんの横顔を見ると、頬に光る物が見えた。

「治せないんですか?」

「今の医療技術では無理です。治療薬が開発されるのは、10年後です…」

10年後???

「どうして、そんな事わかるんですか? もしかして、人助けをしている事と何か関係あるんですか?」

「亜季ちゃんから聞いたんですね?」

「はい…」

「その通りです。関係あります。ですから、紺野さんには話しておきます」

「ちょ‥ちょっと待って下さい。どうして僕に?」

「知っておいてもらいたいんです」

葵さんは、不安そうに僕の反応を確かめていた。

「わかりました。話して下さい。でも、ちょっと待って。心の準備が…‥」

何だか、とてつもない事を言われそうで怖くなった。
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