GIFT
そんな両親のおかげで何不自由ない裕福な生活を送れて来た訳だが、それが幸せと言えるかどうかは僕にはわからないし、とても難しい問題だと思う。

亜季ちゃんは、お金持ちじゃなくてもいいから、家族がいつも一緒にいるような温かい家庭の子に生まれたかったと言っていた。

そんな家庭環境なのに、亜季ちゃんは今まで寂しい思いをした事などないと言っていた。

何故なら佐藤家には10年以上前から食事、洗濯、掃除などの身の回りの世話をしてくれている家政婦の遠藤さんの存在があったからだ。

つまり遠藤さんは、亜季ちゃんと葵さんが小学3年生の頃からずっと佐藤家に仕えているという事になる。

亜季ちゃんたちからすれば家政婦の遠藤さんは、母親みたいな存在なのかもしれない。

「瑛太さん、早く行きましょう」

マンションの外観に圧倒されていると、亜季ちゃんに急かされた。

「そっ‥そうだね。それより遠藤さんてどんな人?」

「瑛太さんは、私が母親のような存在だと思ってるみたいですけど、どちらかと言うと、何でもしてくれる優しいお婆ちゃんみたいな人です」

「お婆ちゃん?」

それなら歳も結構いってるのかもしれない。

「そんな事ないですよ」

「えっ!? 何が?」

「いえ…何でもありません」

亜季ちゃんの顔は、どこか楽しんでいるように見えた。

そして10階にある亜季ちゃん家までエレベーターで上がった。

家の前まで行くと、亜季ちゃんは鞄から何かのカードを取り出し、それをドアノブの近くの機械に差し込んだ。

ガチャ…

すると鍵の開く音がした。

「スゲェ…‥」

高級ホテルにでも来ているようだった。

「大袈裟ですよ。高級ホテルだなんて。どうぞ入って下さい」

亜季ちゃんは、そう言って勧めてくれたけど、今日はそんな気分にはなれなかった。

「今日はいいです。葵さんも具合が悪くて学校を休んでる訳だし…帰るよ」

「美咲ちゃ~ん」

すると突然亜季ちゃんは、大声で美咲ちゃん?という人物を呼び出してしまった。

「は~い、ちょっと待って」

遠くから聞こえた返事は、意外にも若々しい女性の声だった。

「あっ‥亜季ちゃん、何で呼んだの?」

「だって瑛太さん家に入ろうとしないから」

「だからって…‥」

呼ばなくてもいいのに。
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