GIFT
しばらくして、ゆっくり体を起こして振り返ると、交差点の中は衝突しあった車と車、横転した車、電柱に激突した車で散乱し、あちこちから火の手があがっていた。

そして、この大事故の惨劇の中を、注意深く目を凝らして見ると交差点の真ん中に人が倒れているのがわかった。

「嘘だろっ…何でだよっ」

それが誰なのかは直ぐにわかった。

僕は最後の力を振り絞り、四つん這いで交差点の真ん中を目指した。

「仲村っ」

あと2メートルに差し掛かるという所で、僕は大声をあげて仲村を呼んだ。

更に近付くと、仲村は頭から大量の血を流し、体全身が痙攣していた。

「仲村…」

僕は仲村の血だらけの顔に優しく手をあてた。

「うぅぅ……こっ…こんの…くん…」

「そっ‥そうだよ。僕だっ」

「ぶっ‥無事…だったん…だね?」

「お前のお陰だよ…。ごっ‥ごめんな。僕のせいでこんな事に…」

「こっ…こんのくんが…無事ならそれで…いいよ」

「仲村っ」

僕は、仲村の体を抱き寄せた。

「こっ…こんのくっ……ぶはっ…」

仲村は口から大量の血を吐き出した。

「誰かっ…早く救急車を…仲村を助けてっ…」

誰でもいいから、仲村を助けてくれ。

すでに涙で前が見えなくなっていた。

何度拭っても涙は次々と溢れ出してきた。

「うぅぅ……からだが…いたいよ…」

「直ぐに救急車が来るから…それまで頑張るんだ!」

このままじゃ…葵さんが見た未来通りになってしまう。

「ぶはっ…」

仲村は再び血を吐き出した。

「仲村っ…しっかりしろっ」

「くっ…くるしい……こんのくん…」



ピーポーピーポー…‥

遠くで救急車のサイレンの音が聞こえてきた。

「仲村っ…救急車が来たぞ。もう大丈夫だっ」

「こっ…こん…のくん。最後…におねがい…があるの…」

「なっ‥何、弱気な事言ってんだよ!」

「おっ‥おねがい…キス…して…」

「バカやろう!」

僕は、血だらけの仲村の唇にキスをした。

冷たかった…。

それに仲村は震えていた…。

このまま時間が止まってしまえばいいと思った。

そうすれば、仲村は死なずにすむ。

ハッ!?

仲村の唇が微かに動いたので、唇を離した。

「ありが…とう。わっ…わたし…こんの…くんのことが、ずっと…す…きっ…だっ…‥」

スゥッ…‥

仲村の体から急に力が抜け、抱いていた腕にズシンと重みがのしかかってきた。

「おっ‥おいっ…仲村っ」

「・・・・・」
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