GIFT
『そっ‥そういう事になりますかね…。でも、買い物とかして時間を潰していたんで全然気にしなくて大丈夫ですよ』

『すいません。直ぐに行きます』

それから僕は、着替えを済ませて自転車で駅に向かった。

駅に着くと、駐輪場に自転車を置いて、改札口へと続く階段を駆け上がった。

とは言え、右腕には“木の箱”を抱えていたので普段の半分のスピードも出せなかった。

そして階段を上がりきると、葵さんが改札口の近くにある柱に寄り掛かり、目を閉じているのが見えた。

「葵さん…」

「早かったですね」

「お待たせしました。それより今、目を閉じてましたけど、何か見えたんですか?」

「いいえ。ちょっと気になる事があったので、何か見えないかと思って…。でも、何も見えませんでした」

「そうですか…」

葵さんの言う気になる事って?

「それですか?おばあちゃんから送られてきた“木の箱”というのは?」

「そうです。人気のない所まで行って、中身を確認しましょう」

それから僕らは駅を出て、近くの公園まで歩いた。

公園に着くと周りに誰もいないのを確認してベンチに座り、2人の間に“木の箱”を置いて開ける準備をした。

「葵さん…開けますよ。いいですか?」

「はい…緊張してきましたけど、大丈夫です。どうぞ開けて下さい」

葵さんの言葉を聞き終えると、恐る恐る“木の箱”の蓋を開けてみた。

すると中には注射器と透明な液体が入った20㎝くらいのプラスチック製の容器があった。

「これって、もしかして…」

「はい…」

僕と葵さんは見つめ合い、ゆっくり頷いた。

「やっぱりそうですよですね…」

「みたいですね…」

何も語らなくても僕らには、それが何なのかは理解できた。

「紺野さん、これで茉奈ちゃんの病気を治す事が出来るかもしれません」

葵さんは、嬉しそうに笑顔で言った。

滅多に見られない葵さんの笑顔は、亜季ちゃんのものと同じだった。

「“出来るかも”じゃなくて絶対出来ます。今すぐ行きましょう。病院に」

僕のその言葉に、葵さんは驚きと喜びの表情を隠せないでいた。

「ありがとうございます。紺野さんがいてくれるお陰で心強いです」

「葵さんの助けになるって言ったじゃないですかっ。それに僕も茉奈ちゃんを絶対救いたいんです」

「紺野さん、私…‥いっ‥いぇ…何でもないです」

「何ですか?何でも気にせず言って下さい」

「・・・・・」

葵さんはそれ以上何も言わず、歩き出してしまった。

相変わらず、葵さんは掴みどころがないというか謎に包まれている部分が多い。
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