GIFT
「そうです。佐藤家の家政婦をしている遠藤美咲です」

そして次第に眠気が覚めてくるのと同時に、自分の置かれている状況を把握し始めた。

僕は慌てて隣の席を見た。

しかし、葵さんの姿はなかった。

「葵ちゃんですか?」

「えぇ…」

「紺野くんより少し前に目覚めて、トイレに行ったわよ」

遠藤さんは僕が葵さんを探しているのに気付くと、そう教えてくれた。

「そうですか…。それより遠藤さん、どうしてここに?」

「葵ちゃんからメールがきて、迎えに来たんだけど…。お邪魔だったかしら?」

「そんな事はないですけど…。葵さん、遠藤さんには絶対連絡しないって言ってたんで…」

「そうなんだ…。でも、これを見れば本当の事だってわかるよ」

すると遠藤さんは僕の横に座り、葵さんからのメールを見せてくれた。

確かに、メールは葵さんから遠藤さんに送られていた。

それにしても、あれだけ遠藤さんには連絡しないと言っていたのに、急に気が変わるなんて何かあったんだろうか?

考え事をしながら、隣にいる遠藤さんに顔を向けると…

僕の目の前には、あと数センチで触れてしまいそうな距離に遠藤さんの顔があった…。

良い香りがした。

横顔がとてもステキで大人の色気を感じた。

「紺野くっ‥」

「んんっ…」

えっ!?

「・・・・・」
「・・・・・」

「ごっ‥ごめん…」

「えっ…あっ…はい…」

振り向きざまの遠藤さんの唇と僕の唇が…

事故だった…

不可抗力だ…

そう言えば、前にもこんな事があったような…

その相手が誰だったのかは思い出せない…

でも、確かにこんな事があった。

ガチャ…

するとトイレから戻って来た葵さんが部屋に入って来た。

僕と遠藤さんは慌てて距離をとった。

「どうしました?」

「なっ‥何でもないよ」

「2人とも顔が真っ赤ですよ」

「へっ‥部屋が暑いせいだよ」

「そうですか…」

なぜか葵さんは寂しそうな顔をしていた。
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